一級建築士を取得したあと、「せっかく勉強する習慣がついたし、次の資格にも挑戦してみようかな」と考える人もいるのではないでしょうか。
一級建築士だけでも十分に難関資格です。
それなのに、合格した途端に次の資格を探し始めるあたり、資格試験には少し中毒性があるのかもしれません。
とはいえ、建築の仕事は設計だけで完結するものではありません。
施工、不動産、建物管理、土地、測量など周辺分野はかなり広く、一級建築士に別の資格を組み合わせることで仕事への理解を深めたり、将来の選択肢を増やしたりできる可能性があります。
いわゆる「ダブルライセンス」です。
ただし、資格なら何でも取ればいいというわけではありません。
この記事では、一級建築士と相性の良い資格を6つ紹介しながら、それぞれどんな人に向いているのか、ダブルライセンスにはどんなメリットがあるのかを考えていきます。

- ダブルライセンスを狙うメリット
- 建築士と相性の良い資格
- 次に狙う資格の選び方
一級建築士がダブルライセンスを得ることのメリット

- 仕事を見る範囲が広がる
- ダブルライセンスは年収アップにつながる?
- 取りやすい資格より「必要な資格」を選ぶ
仕事を見る範囲が広がる
建築物をつくる仕事には、さまざまな専門家が関わっています。
設計する人がいれば、施工する人、土地を売買する人、測量する人、登記を行う人、完成後の建物を管理する人などなど。
一級建築士に関連資格を組み合わせることで、自分の専門分野だけでなく、その前後の仕事についても理解しやすくなるのです。
例えば、宅建士の勉強をすれば不動産取引や権利関係についての知識が増えます。
1級建築施工管理技士なら、施工方法や品質、安全、工程など建物を実際につくる側の視点を深められます。
資格そのものよりこうした視点を増やせることがダブルライセンスの大きなメリットではないでしょうか。
ダブルライセンスは年収アップにつながる?
一級建築士に宅建士などの資格を組み合わせたからといって、それだけで年収が上がるわけではありません。
ただし、ダブルライセンスによって担当できる業務や活躍できる分野が広がれば、結果として収入アップにつながる可能性はあります。
例えば、一級建築士は建物の設計や工事監理を中心とした専門資格ですが、宅建士の知識を加えることで、不動産取引や契約、重要事項説明など不動産分野への理解も深めることができます。
建築と不動産の両方を理解していることは、不動産会社やデベロッパーなど建築以外の分野で働く際にも強みになるでしょう。
また、独立を考えている人にとっても、ダブルライセンスは仕事の幅を広げるきっかけになります。
設計業務だけでなく、不動産取引に関する知識を活かした提案や相談対応など、資格や事業内容に応じて提供できるサービスを広げられる可能性があるからです。
もちろん、資格を取得しただけで仕事や収入が増えるわけではありません。
大切なのは、取得した資格を実務の中でどのように組み合わせるか。
現場に強くなりたいなら施工管理技士、不動産分野まで仕事を広げたいなら宅建士というように、自分が目指すキャリアに合った資格を選ぶことで、転職や独立、事業拡大など将来の選択肢を増やすことができます。
ダブルライセンスの本当のメリットは、資格の数を増やすことではなく、一級建築士として提供できる価値や仕事の幅を広げ、その結果として収入アップにつながる可能性を高められる点にあるといえるでしょう。
ちなみにですが、ダブルライセンスだけでなく一級建築士という資格そのものがキャリアや収入にどの程度影響するのかについては、こちらの別記事で触れているのでよろしければ読んでみてください。

取りやすい資格より「必要な資格」を選ぶ
次の資格を選ぶときに、合格率や勉強時間だけで決めるのはあまりおすすめしません。
先に考えたいのは、
「これからどんな仕事をしたいのか」
ということです。
不動産開発にも関わりたいなら宅建士。
施工や現場にも強くなりたいなら1級建築施工管理技士。
マンション改修や管理組合支援に関心があるならマンション管理士。
土地や登記まで専門分野を広げたいなら土地家屋調査士。
このように、目指す方向によって取得する資格は変わります。
資格取得にはそれなりの時間が必要です。
一級建築士試験という巨大な山を越えたあとに、わざわざ別の山へ登るのであれば、せめて登った先に行きたい景色がある山を選びたいところです。
1級建築士とのダブルライセンスに相性のいい資格6選

一級建築士と組み合わせやすい資格を、仕事との相性から整理すると次のようになります。
| 資格 | 相性 | 特に向いている人 |
|---|---|---|
| 宅建士 | ◎ | 不動産・開発分野まで広げたい |
| 一級建築施工管理技士 | ◎ | 施工・現場にも強くなりたい |
| 土地家屋調査士 | ○〜◎ | 土地・測量・登記まで広げたい |
| マンション管理士 | ○ | 改修・維持管理に関わりたい |
| 賃貸不動産経営管理士 | ○ | 賃貸住宅・管理分野に関わりたい |
| 測量士 | ○ | 土地・測量の専門性を高めたい |
相性はあくまで仕事との組み合わせを考えた個人的な目安です。
それぞれ詳しく見ていきます。
宅建士|建築と不動産をつなげたい人におすすめ
一級建築士とのダブルライセンスとして、まず思い浮かべやすいのが宅地建物取引士、いわゆる宅建士です。
建物を設計する一級建築士に対し、宅建士では不動産取引に関係する法律や権利関係について学びます。
宅地建物取引業者が不動産を売買・賃貸する際には、宅地建物取引士が重要事項説明を行う場面もあります。
そのため、建物そのものだけでなく、
「この土地や建物がどのように取引されるのか」
という視点を持てるようになるのが面白いところです。
特に、不動産会社、デベロッパー、住宅会社などで働いている人には相性の良い資格でしょう。
一方で、宅建士資格を持っているからといって、資格だけで不動産仲介業を自由に行えたり、法律相談全般を行えたりするわけではありません。
あくまで宅建業の制度や業務範囲を理解したうえで活用する必要があります。
資格試験として見ると、一級建築士試験で法規を経験している人は「法律の文章を読む」ということへの抵抗感は多少少ないかもしれません。
ただし、独特の言い回しには最初かなり戸惑います。
個人的には、問題文を読んでいるだけなのに「日本語ってこんなに難しかったっけ?」となるタイプの試験です。
それでも今回紹介する資格の中では、比較的挑戦しやすい選択肢だと思います。
宅地建物取引士資格試験(宅建試験)とは ←試験元へのリンク
一級建築施工管理技士|設計と施工の両方を理解したい人におすすめ
設計だけでなく、建物が実際にどのようにつくられるのかまで理解したい人には、一級建築施工管理技士との組み合わせがおすすめです。
私自身も一級建築施工管理技士を取得していますが、建築士試験とは同じ建築分野でも求められる視点がかなり違います。
一級建築士では計画・環境設備・法規・構造・施工などを幅広く学びますが、建築施工管理技士では、より施工現場に近い視点から工程・品質・安全・施工方法などを学ぶことになります。
設計図を見るときにも、
「これは現場ではどう施工するのか」
という視点を持てるようになるのは大きなメリットです。
設計側と施工側では、ときどき見ている世界が驚くほど違います。
その両方を知っていることは、ゼネコンや建設会社、設計施工を行う会社などでは特に役立つでしょう。
なお、以前は一級建築士との関係を「第一次検定が免除され、第二次検定から受験できる」と説明されることもありましたが、現在の制度は異なります。
2026年度の新受検資格では、一級建築士試験合格者についても第二次検定を受検するために所定の実務経験が必要です。
一級建築士だから無条件で第二次検定だけを受けられるという制度ではありません。
施工管理技術検定は制度改正や経過措置もあるため、受検する際には必ずその年度の建設業振興基金の受検資格を確認してください。
マンション管理士|建物を建てた後まで考えたい人におすすめ
建築士は建物を計画・設計する仕事と強く結びついていますが、建物の寿命は完成してからの方が圧倒的に長いです。
そこで相性が良いのがマンション管理士です。
マンション管理士は、管理組合の運営やマンションの維持・修繕、大規模修繕などについて、管理組合や区分所有者へ助言・支援を行う専門家です。
一級建築士として建物の構造や設備、劣化、改修などを理解しながらマンション管理士として管理組合運営や維持管理についても理解できれば、「建物」と「管理」の両方を見ることができます。
特に、マンションの大規模修繕、改修設計、長期修繕計画などに関わる人には相性の良い組み合わせでしょう。
ただし、マンション管理士を取得したからといって、それだけで大規模修繕工事を受注できたり収入が大幅に増えたりするわけではありません。
建築の専門性とマンション管理の知識を実際の業務の中でどう結びつけるかが重要です。
賃貸不動産経営管理士|賃貸住宅の運営・管理まで知りたい人におすすめ
賃貸住宅に関わる仕事をしている人なら賃貸不動産経営管理士も候補になります。
賃貸住宅は建てれば終わりではありません。
完成後には建物や設備の維持保全、入居者対応、家賃や敷金などの管理といった業務が続いていきます。
賃貸不動産経営管理士ではこうした賃貸住宅管理について専門的に学ぶことができます。
一級建築士として建物をつくる側の知識に、賃貸住宅を維持・管理する側の知識を加えることで、賃貸物件をより長い時間軸で考えられるようになります。
賃貸住宅の企画、設計、リフォーム、維持管理などに関わる人とは相性が良いでしょう。
なお、一定の要件を満たす賃貸住宅管理業者には営業所・事務所ごとに「業務管理者」を配置する制度がありますが、資格を取得しただけで自動的に業務管理者になれるわけではありません。
実務経験など一定の要件があります。
このあたりも資格取得前に確認しておきたいポイントです。
土地家屋調査士|土地・建物の表示登記まで広げたい人におすすめ
土地家屋調査士は、一級建築士とかなり異なる専門性を持つ資格です。
主な業務は、不動産の「表示に関する登記」に必要な土地・建物の調査や測量、それに伴う登記申請の代理などです。
例えば建物を新築した際の建物表題登記や、土地を分ける際の分筆登記などが関係します。
ここで注意したいのが、「登記なら何でも扱う資格」というわけではないこと。
土地家屋調査士が主に扱うのは、不動産の所在、地番、地目、地積、床面積など物理的な状況を示す「表示に関する登記」です。
所有権の移転など「権利に関する登記」とは区別されています。
一級建築士と組み合わせれば、設計に加えて土地・建物の調査、測量、表示に関する登記についても専門性を持てるため、土地から建物まで幅広く関わりたい人には魅力的な資格です。
そして一級建築士にとって大きいのが試験免除制度です。
土地家屋調査士試験は筆記試験と口述試験があり、筆記試験は午前の部と午後の部に分かれています。
一級建築士または二級建築士などの一定の資格を持っている場合、午前の部が免除されます。
とはいえ、午後の部だけになったから簡単というわけではありません。
土地家屋調査士も十分に難関資格です。
一級建築士を取った勢いでちょっと受けてみようという軽いノリで登り始める山ではなさそうです。
測量士|土地や地形について専門性を深めたい人におすすめ
建築物は必ず土地の上に建ちます。
その土地の位置、高さ、形状などを正確に把握するために重要なのが測量です。
測量士では、測量法規、測地測量、地形測量、写真測量、地図編集、応用測量など幅広い知識が求められます。
建築士として敷地や地形を読み取る力に加え、測量について専門的に理解できれば、土地利用や計画を考える際にも役立つでしょう。
特に、造成、都市計画、土木、開発など土地との関係が深い仕事をしている人には相性があります。
一方、一般的な建築設計を中心に仕事をしている人であれば、宅建士や施工管理技士と比べて資格を直接活用する場面は少ないかもしれません。
測量士試験には年齢や学歴、実務経験による受験資格の制限がないので挑戦自体は可能です。
ただし、資格を取るための負担と自分の仕事でどの程度使うのかはよく考えた方がよいかもしれません。
結局のところ一級建築士の次に取る資格はどれがいいの?
ここまで6つ紹介しましたが、結局どの資格を取ればいいのでしょうか。
答えは、これから自分がどの方向へ進みたいかによって変わります。
不動産や開発まで仕事を広げたいのであれば、まず宅建士が候補になります。
施工・現場に強くなりたいのであれば一級建築施工管理技士。
マンション改修や維持管理に関わりたいのであればマンション管理士。
賃貸住宅の管理まで理解したいのであれば賃貸不動産経営管理士。
土地・境界・表示登記の専門性まで身につけたいのであれば土地家屋調査士。
測量や土地利用を深めたいのであれば測量士です。
ここで重要なのは、資格の数が多ければ市場価値が高いとは限らないこと。
使わない資格を3つ取得するより、自分の仕事と深く関係する資格を1つ取得して実務で使えるようになる方が価値は大きいはず。
資格集めが趣味なら話は別ですが、キャリアアップが目的なら何を取るかより取った資格を何に使うかを考えた方がよいでしょう。
特に40代・50代になると、資格取得に使える時間も限られてきます。
限られた時間の中で難関資格を目指すこと自体に価値があるのかについてはこの記事でも触れているので気になる方は読んでみてください。

資格を増やすより自分の専門性を広げよう!
一級建築士と他の資格を組み合わせることで、建築以外の分野への理解を深めたり、担当できる仕事や転職先、独立後の選択肢を広げたりできる可能性があります。
ただし、ダブルライセンスを取得すれば自動的に年収が上がったり仕事が増えたりするわけではありません。
大切なのは、一級建築士として今後どの方向へ進みたいのかを考えてそのために必要な資格を選ぶことです。
現場にも強くなりたいなら一級建築施工管理技士。
不動産まで仕事を広げたいなら宅建士。
土地や表示登記まで専門性を広げたいなら土地家屋調査士。
このように、自分のキャリアから逆算すると次に取るべき資格は自然と見えてきます。
今回紹介した資格は、一級建築士試験に負けず劣らず勉強が必要なものも少なくありません。
せっかく一級建築士という大きな山を登ったのに、何となく隣の山へ向かう必要はありません。
ただ、その先にやりたい仕事があるのであれば、ダブルライセンスは一級建築士としての専門性をさらに広げる強力な武器になります。
ちなみにですが、資格を増やすのではなく一級建築士の資格を海外で活かすという選択もありますよ。

最後に、くどくて申し訳ないですが資格を増やすことを目的にするのはやめましょう。
大事なことは自分はどんな建築の専門家になりたいのかを決めること。
これが決まれば自ずと必要な資格が見えてくるはずです。



